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遺体安置ビジネスが急成長!その実情と利用費用について紹介

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都市部で広がる遺体安置ビジネス

厚生労働省の人口動態統計によれば、2017年(日本)に亡くなった人の数は約134万人で、これは戦後もっとも多い数です。このうち65歳以上は約120万人を占め、高齢化が進む日本はまさに「多死社会」を迎えているといえます。

そんな中、近年「遺体安置ビジネス」という新しい事業分野が成長してきました。病院で亡くなった方を「火葬されるまでの間預かる」というビジネスで、都市部を中心に事業者数が増えつつあります。

今回はこの遺体安置ビジネスについて注目し、同事業が登場してきた背景事情やサービス内容・利用料金について解説していきます。

 

遺体安置ビジネスとは?事業の概要と利用料金を紹介

亡くなった方の遺体を預かるという事業が誕生した背景には、社会の多死化が進む中で火葬場の数が不足し、「火葬までの待ち時間が発生している」という現状があります。

現在の法律上、亡くなった後は24時間以上の安置が義務付けられています。昔は死亡診断の技術が十分ではなく、仮死状態の人を死亡と判断することも多かったのです。そのため、「24時間様子をみる」という意味で、このような法令が定められています。

24時間+α程度であれば、いったん自宅に引き取るということもできるでしょう。
しかし、火葬できるまで数日かかるとなると、自宅で預かり続けることは大変になります。

死亡後、火葬までの時間を預かる遺体安置ビジネス

現在、火葬場の数が全国的に不足し、人口の多い関東圏では特に不足数が多くなっています。例えば横浜市の北部斎場や南部斎場では、火葬の申し込みから実施できるまでの日数は3~5日かかるのが一般的です。

エンディングデータバンクの調査によれば、2015年に亡くなった人のうち、亡くなってから葬儀までの期間としてもっとも多かったのは「4日」で、次に多いのが「5日」、3番目が「6日」です。(参考:亡くなってから葬儀までの期間

火葬は葬儀の日に行われるのが通例ですので、亡くなってから葬儀までの期間は遺族側で預かり続ける必要があります。しかし、数日にわたって自宅に安置し続けるのは、生活上困難にならざるをえません。

そんな中で生まれてきたのが「遺体安置ビジネス」と言えます。亡くなった方を温度調節が行われた専用の遺体安置所で預かってくれるため、ご遺体の状態を悪くすることもありません。

「高齢化・多死化」が進む中、火葬場がそれに合わせて増え続けるとは想定しにくいため、こうしたビジネスは今後さらに成長していくと予想されています。

遺体の安置サービスを利用する際の費用

実際に利用する際の料金は、事業者や立地場所によって大きく異なりますが、相場としては「1泊につき1~2万円ほど」になるので、仮に5日預けると5~10万円の出費となります。ご家庭によっては、大きな出費として感じられるかもしれません。

ただ、民間の葬儀社でも安置所を設置していることがあります。遺族も一緒に宿泊できるようなクオリティの高いところは、1泊3万円ほどする場合もあります。利用するなら葬儀にかかる費用の一環として、きちんと予算を立てておく必要があるでしょう。

遺体安置ビジネス登場の背景にある火葬場の減少

高齢者が増え、死者数が過去最高を更新している状況であるにもかかわらず、火葬場の数はむしろ減少傾向にあるのが現状です。
(参考:火葬場不足で葬儀が遅れる?「火葬待ち」が普通に起こる最新の火葬場事情

特別非営利法人「日本環境斎苑協会(PDF資料)」によると、全国の火葬場数は昭和63年時点では1921箇所だったのに対し、平成28年度では1467箇所と400箇所以上も減少しています。

老朽化に伴い、炉数の数を増やした大型施設の建設も進められてはいますが、無くなる人の数が年々増えている中、それを補うだけの火葬場が用意できていないのが実情と言えるでしょう。

全国の火葬場数の推移 施設の数
昭和63年(1988年) 1,921施設
平成5年(1993年) 1,966施設
平成11年(1999年) 1,558施設
平成20年(2008年) 1,563施設
平成28年(2016年) 1,467施設

遺体安置所を利用することのメリットとデメリット

遺体安置所のメリットとデメリット

親族が亡くなった後すぐに火葬場が使えず、自宅での保管が難しい場合は、遺体安置所を活用することが必要です。ただ、遺体安置所は「火葬場の順番が来るまで待てる」ということ以外にもさまざまな利点があります。

その一方で、利用することで生じる不利益もあります。実際に利用する場合は、遺体安置所の「長所と短所」をそれぞれ認識しておくことも重要です。

遺体安置所を利用することのメリット

利点の一つは、葬儀を行うまでの時間を確保できることです。親族が亡くなったときは心身ともに疲れている状態なので、家族でゆっくりと葬儀社を選べることは大きなメリットとなります。

病院で肉親が亡くなったら、多くの場合はその日のうちに遺体を移動させなければなりません。残された家族は亡くなったことへのショックや悲しみから冷静になれない中で葬儀社を選ぶことが求められます。

しかし遺体安置所を利用することで、葬儀社のサービス・費用面を比較検討する余裕が生まれるので、葬儀の際のムダな出費を避けやすくなります。

また、安置所によってはそのまま直葬や家族葬という形のシンプルな葬儀を安く行えることもあります。その場合、葬儀社に頼むよりも費用を抑えられるので、お金をかけずに送りたい方には大きな利点と言えるでしょう。
(参考:直葬とは?費用の相場とメリット・デメリット

遺体安置所を利用することのデメリット

本来なら必要ではないはずの費用(安置用)が必要になる点は、大きなデメリットなのは間違いありません。また、遺体安置所によっては事業の開設・継続に対して周辺住民の理解を得られていないことも多くあります。

利用のために出入りする際は肩身の狭い思いをするかもしれません。安置所を利用する際は、周辺住民からどのような評判を得ているのか、調べてみることも重要です。

遺体安置所の設置に反対する住民運動も起こっている

新たな事業として注目が集まる「遺体安置ビジネス」ですが、亡くなった方を数日間預かるということは、安置所周辺に住む住民は、ご遺体が近くにある中で日常生活を送ることになります。

住民の中には、安置所が身近にあることに違和感・不快を感じる人は少なくありません。2014年には、神奈川県川崎市に遺体安置所を作ろうとした業者に対して、周辺の住民が猛反発するというケースが起こっています。

神奈川県川崎市で起こった反対運動

事業者側は工場だった施設を用途変更し、「3階建ての建物の1階部分に10体の遺体を受け入れられる安置所を作る」という事業計画を立てていました。実際、川崎市では遺体を一時的に預かる場所がなく、安置所に対する市民のニーズは大きかったのです。

しかし、住民からは「周囲から遺体が見えるのではないか」との不安の声が上がり、事業者側は公民館で説明会が開くなどの対応に追われました。最終的に安置所は開設しましたが、話し合いは結局平行線のままだったと言います。

遺体安置所の社会的な必要性は高いものの、近所に作られることを拒否する人は多い

火葬場が不足する中、遺体安置所の必要性は社会の中で高まりつつあるのは間違いありません。しかし、遺体が近くにあることによる精神的なストレスや衛生面での不安、さらに子供に対する悪影響なども懸念され、住民側の賛同を得にくいのが現状です。

また、そのような施設があることで、周辺地域の地価が下がる恐れもあります。川崎市のような遺体安置所の開設反対運動は、2011年にも東京大田区で起こり、住民主体で1万人以上から反対の署名を集める運動が展開されました。

ただ、火葬場や墓地と異なり、住民の同意を得ることが制度上義務付けられていないため、最終的に開設にいたっています。ニーズの大きさや市場の拡大化が指摘される一方で、遺体安置ビジネスにはこうした負の部分もあるわけです。

遺体安置ビジネスは今後どうなる?ニーズの拡大と周辺住民の反対との間で・・・

年間死亡者数が増え続ける中、それを補うだけの火葬場の増加が追いついていません。今後も遺体安置ビジネスに対する需要は増え続けると考えられます。ただ、「安置所周辺に住む住民からの理解が得にくいこと」など、課題が多いのも実情です。

実際に利用する場合は、遺体安置所を使うことによるメリットやデメリットを踏まえておくことも必要になります。