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嚥下とは?年末年始に気をつけたい「機能低下で起こる高齢者の窒息」

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年末年始に注意したい嚥下とは?

年末年始に日本人の多くが食べる「お餅」。お正月に飾ったお餅を「食べないと!」ということで、各家庭でお雑煮などを食べる機会が増えるのではないでしょうか。

このお餅ですが、高齢者を窒息させ、最悪の場合は命に関わる事態になることもあります。東京消防庁の調査によれば、平成22~26年の5年間で「お餅による窒息」が原因で救急搬送された人の数は、東京都内だけで571人になっています。

そして、そのうち約4割にあたる221人が「1月」、76人が「12月」、57人が「2月」に搬送されています。12~2月の3ヶ月で全体の半数以上を占めているのです。
(参考:東京消防庁「餅による窒息のデータ」PDF

また、この記事を書いているときに「餅をのどに詰まらせて17人搬送、2人死亡」という記事が配信されてきました。この記事を見ても、やはり80代男性と90代女性の高齢者が餅をのどに詰まらせてしまっています。

若い世代に比べて、なぜ高齢者はお餅を喉に詰まらせるのでしょうか?その原因の1つが「嚥下機能(えんげきのう)の低下」にあります。嚥下機能とは食べたものを飲み込む機能のことで、加齢とともに衰えていくのです。

そこで今回は、この「嚥下」について注目し、嚥下の仕組みと機能低下によって起こる「弊害・対策」を解説していきます。

 

嚥下とはどんな機能?食べ物を口に入れ、「噛み・飲み込む」一連の働き

健康な人が食べ物を口にする場合、「噛む・飲み込む」という動作を意識することはほとんどないでしょう。しかし、この一連の作業で人間の喉は複雑な動きをしており、複数の器官がきちんと機能することで、はじめて「食べ物を飲み込む」ことができるのです。

もし嚥下機能が正常に働かなくなると、物をスムーズに食べられなくなり、本来は楽しいものである食事に苦痛を感じるようになってしまいます。

嚥下とは?飲食物を認識し、胃まで送るプロセスのこと

嚥下の動作

  • 1食べ物を目で確認
  • 2手で口まで運ぶ
  • 3咀嚼して飲み込み
  • 4胃に送る

以上の動作を「嚥下(えんげ)」といい、このプロセスで口の中の物を飲み込んで胃まで送ることが「摂食嚥下」です。そして、接触嚥下を行うための身体機能が「嚥下機能」となります。嚥下機能が衰えると、物をうまく飲み込めなくなる「嚥下障害」が起こります。

嚥下(えんげ)の「嚥」は少し見慣れない言葉かもしれません。燕の子供が大きく口を開けて親鳥から餌をもらう姿から生まれた言葉で、「燕」に「口へん」が付くことで、「飲み込む」という意味を持つ動詞となったのです。現代医学でも「嚥下」という語が使用されています。

嚥下機能のメカニズム・・・食道と気道が無意識に働く

人間の喉の奥には、2つの通り道があります。食べた物を飲み込みこんで胃に送るとき、通り道となる「食道」。酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出す呼吸時の通り道である「気道」の2つです。

食べた物を正常に胃へ送るには、喉頭収縮筋を収縮させて気道の入り口を閉じ、咀嚼されたものをすべて食道に送る必要があります。人は意識してこの作業を行っているわけではありません。無意識に「食べ物を飲み込むとき、気道を閉じ食道を通るよう機能させている」のです。

嚥下機能が低下することで起こる嚥下障害!窒息や誤嚥性肺炎のリスクも

健常者なら意識することなく作用する嚥下機能ですが、高齢者の中にはこの機能が衰え、食べた物をうまく飲み込めなくなるという方が多いのです。

中には、口に食べた物を咀嚼するまではできても「ごっくん」と飲み込むことができず、いつまでも食べ物が口の中に残ってしまうという方も。嚥下機能の低下が顕著になると、「誤嚥性肺炎」という命に関わる病気になることもあります。
※食べた物や唾液が気道に流入したことが原因

嚥下機能が衰えると起こる誤嚥

食べた物を飲み込むとき、気道の入り口が十分に閉じず、咀嚼物や唾液が気道に侵入してしまうことを「誤嚥(ごえん)」といいます。

食事中に「食べた物が変なところに入った」と感じて、ひどくむせてしまう経験をしたことはないでしょうか。それがまさに誤嚥の状態で、気道に入ったものを排出しようとして咳が出るのです。

誤嚥は、嚥下機能自体が低下すると頻繁に起こるようになります。高齢者の中には、食事中だけでなく夜の就寝中に唾液が気道に入り込み、誤嚥が起こるという方も多いです。

嚥下障害によって起こる症状とは・・・窒息のリスクが向上

誤嚥などが起こり、飲み込む動作がうまくいかないことは「嚥下障害」と呼ばれ、嚥下障害が深刻化するとさまざまな症状が現れます。

一般的に見られる症状としては、固形物を咀嚼して飲み込めなくなるということ。硬いものを「ごっくん」とできなくなり、うどんや豆腐などの「柔らかいもの・噛まないで食べられるもの」ばかり食べようとします。

その結果、食べられるものが著しく制限され、栄養が偏って低栄養状態に陥りやすくなるのです。そのため、「体重が次第に減っていく」という症状が現れることも少なくありません。

もし固形物をムリに飲み込もうとして、食べたものが気道に入ると窒息という事態を招くことになります。高齢になると気道に入ったものを吐き出す力が衰えてしまい、窒息のリスクが高まるのです。

冒頭で上げたお餅は、もっともリスクの高い食材の一つです。高齢者と生活している方で、「最近よくむせる」と感じているなら、ムリにお餅を食べないよう注意する必要があります。

誤嚥性肺炎を引き起こし、命に関わる場合も

誤嚥により「食べた物・唾液・胃の逆流物」などが気道に入り、そこに含まれる細菌が気管を経て、肺に到達すると炎症が起こるのです。こうした誤嚥を原因として発症する肺炎は「誤嚥性肺炎」と呼ばれています。このように、嚥下機能の低下で誤嚥が起こりやすくなると、肺炎のリスクも高まります。

厚生労働省の「平成29年(2017)人口動態統計(確定数)PDF」によれば、「肺炎」は日本人の死因第5位です。そして同省の資料によれば、肺炎患者の7割以上が75歳以上の高齢者で、高齢者における肺炎の7割以上が誤嚥性肺炎。日本人高齢者の命を脅かす恐ろしい病気と言えるでしょう。

嚥下機能が低下する原因とは?器質的原因・機能的原因・心理的原因

嚥下機能が低下する原因

嚥下障害は病気ではなく、疾患が引き金となって起こる「症状」です。「食べ物を認識して口内に運ぶ ⇒ 咀嚼 ⇒ 舌を使って飲み込みやすい形に整えて食道から胃に送る」という一連の過程で問題があれば、それが原因で嚥下機能の低下が起こります。

嚥下機能の低下を引き起こす原因としては、疾患別に「器質的原因」「機能的原因」「心理的原因」の3種類に分けて理解されるのが通例です。

ただ、単一の原因だけで起こるわけではなく複数の原因が併発して起こることも多いので、主治医と相談しながら治療法を考えていく必要があります。

器官の構造に問題がある「器質的原因」

まず器質的原因とは、構造的な問題(※)があり、嚥下機能が低下するケースのことです。
※口腔内から胃までの器官に食べ物を通す上での構造
また、先天的な奇形(唇顎口蓋裂)が原因で嚥下障害が起こることも少なくありません。

構造的な問題

  • 口腔・喉頭に「舌炎・口内炎・歯槽膿漏・扁桃炎・腫瘍」が発生している場合
  • 潰瘍や食道炎の場合
  • 食道の「蛇行・変形・狭窄(狭くなること)」が起こっている場合

口腔・喉頭に「舌炎・口内炎・歯槽膿漏・扁桃炎・腫瘍」などが発生している場合、あるいは食道に潰瘍や食道炎、食道の「蛇行・変形・狭窄(狭くなること)」などが起こっている場合が該当します。

加齢によって神経や筋肉が衰える「機能的原因」

機能的原因は器官の構造には問題ないものの、器官を動かすための神経や筋肉に問題があり、嚥下機能が低下するケースのことです。

特に脳卒中の後遺症で麻痺や認知機能に障害が生じている場合、パーキンソン病などの神経と筋肉の間に伝達異常が生じる病気を発症した場合は、嚥下障害が起こりやすくなります。

また、精神科で処方される向精神薬や鎮静剤などの影響で嚥下機能に関わる器官がうまく働かなることもあるので、現在服薬している方は注意が必要です。

機能的原因をもたらす最大の要因は「加齢による衰え」です。高齢になると筋力低下が生じ、食べ物を飲み込むときに気道をきちんと閉じにくくなります。

精神症状が引き金となる「心理的原因」

摂食嚥下に問題のある人のうち「器質的・機能的」に問題がみられない場合は、心因性の疾患が疑われることが多いです。

うつ病やヒステリーの症状がみられるときは、食欲不振など摂食面に障害が起こることがあり、嚥下機能に問題が生じることがあります。精神科で治療を受けていて、嚥下障害の症状がみられるなら速やかに主治医へ相談する必要があるでしょう。

嚥下機能低下の原因まとめ

嚥下機能低下の3つの原因

  • 1器質的原因・・・器官の構造的問題
  • 2機能的原因・・・器官を動かす筋肉、神経に問題
  • 3心理的原因・・・うつ病など精神面における問題

嚥下障害を治療するには?リハビリと手術が主な方法

嚥下機能の低下に対する対策としては、口唇や舌・頬を動かすリハビリトレーニングがもっとも効果的です。現在では、耳鼻咽喉科や歯科などで「嚥下障害専門外来」を設置している病院や摂食・嚥下障害専門のリハビリテーション科もあります。

しかし症状が重度化すると、リハビリだけでは症状の回復・改善が見込めなくなるため、障害が起こっている部位に外科手術を行うことも必要です。

食べ物を使う直接訓練と食べ物を使わない間接訓練

嚥下機能を回復させるためのリハビリには、「食べ物を使って嚥下機能を鍛える直接訓練」「食べ物を使用せずに行う間接訓練」の2種類があります。

直接訓練の例

  • 普段は無意識に行われる嚥下(食事)を、指導員が「飲み込みましょう」と声を掛けて意識化させる訓練
  • 咀嚼の必要のないゼリーを丸呑みする方法
  • 「喉に残りやすい固形物」と「とろみのある食品」を交互に食べて嚥下機能を高める交互嚥下法

間接訓練の例

  • 手・器具を使って舌や頬・口周りを動かすトレーニング(嚥下体操)
  • バルーンカテーテルを使って喉・食道を広げる訓練
  • 呼吸時に使う筋力を鍛えて、食べ物が気管に入ったときに排出する力を高める方法

手術による嚥下機能の改善方法

嚥下障害が重度化している場合は、「嚥下機能改善手術」「誤嚥防止術」などの手術が行われます。

嚥下機能改善手術は誤嚥を減らし、口から食事を摂れるようにするための手術です。嚥下機能が著しく低下している場合は、口からの食事が難しく、経管栄養などの必要性が生じます。その状態を改善するために行われるのが嚥下機能改善手術です。

もう1つの誤嚥防止術は、誤嚥を防ぐために食道と気道を分離する手術です。ただ、発声機能を維持できなくなる恐れがあるので、手術の決断は慎重に行う必要があります。

高齢者と同居している方は、嚥下機能に問題がないか確認を!

冬の時期はお餅を食べる機会も増えますが、嚥下機能が衰えている高齢者にとっては窒息リスクを伴うので、最大限の注意が必要です。高齢者と同居している方は、お餅の「食べ方・食べさせ方」に気をつけましょう。

もし嚥下障害の症状がみられるなら早めに主治医に相談し、必要な対処法や訓練法などについて相談することをオススメします。