高齢者向けの施設というと「老人ホーム」の名前を思い浮かべる人は多いと思いますが、一口に老人ホームと言っても高齢者が入居して生活できる施設の種類は複数あります。
グループホームもそんな施設の一つですが、老人ホームではなく「グループホーム」という名称(施設)を知らない方が多いのではないでしょうか。ただ高齢の親を持つ方は、これから利用することになるかもしれません
そこで今回は「グループホームとはどのような施設なのか?」というテーマを取り上げ、「入居条件」「入居後の生活のあり方」「入居費用」について解説いたします。
グループホームの特徴とは「ユニット単位で共同生活を送る認知症の方向けの施設」
グループホームがどんな施設か分からなくとも、施設の看板を目にしたことがある方はいるかもしれません。定員が9~18名の小さな施設が多く、中には古民家を改修して運営している施設もあります。
老人ホームというと大きな施設をイメージしがちですが、グループホームはこじんまりとした建物で、アットホームな雰囲気の中で生活できるのが特徴の一つです。
グループホームは認知症の方のみが入居できる施設
グループホームとは「認知症の高齢者の方を入居対象」とし、専門職員のサポートを受けながら5~9人のユニットごとに共同生活を送る施設です。
高齢者であれば誰もが入居できるわけではなく、入居条件として「認知症を患っていること(専門医から認知症の診断を受けていること)」が定められているので、入居者は基本的に全員が認知症有症者です。
入居後はすぐに最大9人でユニット(グループ)を作り、ユニット単位で「調理・掃除」などを行いながら自立機能を高める訓練をして生活します。
もちろん認知症の「進行度合い・要介護度の高さ」によってやれることは限られますが、出来る範囲で家事に取り組むのが基本です。また、職員が常時見守りを行い、必要に応じて適宜サポートします。
認知症を発症すると、記憶機能や実行機能に障害が出てきますが、日々の家事をこなしていくことで、その衰えを遅らせることができるのです。
グループホームの入居条件
「専門医から認知症の診断を受けていること」のほかに、グループホームに入居するには「65歳以上であること」「要介護認定(要支援2~要介護5)いずれかの認定」「集団生活を送れる方」が規定されています。
注意
認知症の症状があり、医師にも正式に認知症の診断を受けていても、住んでいる自治体の役所(地域包括支援センター)で要介護認定の申請 ⇒ 認定を受けていなければ入所できません。
また、グループホームは介護保険による「地域密着型サービス」の「認知症対応型生活協同介護」に該当する施設として位置づけられているため、原則として施設が立地する自治体に住んでいる人が入居対象です。グループホームを探す場合は、同じ自治体にある施設を探しましょう。
グループホームが増えてきた背景は認知症「有症者数」の急速な増加と「認知症介護負担」の重さ
厚生労働省の調査によれば、施設数(グループホーム)は介護保険制度が始まった2000年当初は全国で675施設ほどでしたが、その後急速に数を増やし、2013年時点では1万2,152施設まで増加。2016年には1万3,116施設となっています。これだけ施設数が増えた理由には、「高齢化の進展・認知症を発症した高齢者」が増えてきたことが大きな要因です。
グループホームの施設数
2000年 | 675施設 |
---|---|
2005年 | 5,449施設 |
2010年 | 9,292施設 |
2016年 | 1万3,116施設 |
※厚生労働省資料「施設・居宅系サービスについて」及び「平成28年介護サービス施設・事業所調査の概況」より作成
年々増え続ける認知症の発症者数
内閣府の「平成29年版高齢社会白書」によれば、認知症の発症者数は2012年当時で462万人でした。この時点ですでにかなり多いのですが、そのわずか3年後の2015年には50万以上増えて517~525万人となっています。
今後もさらに増え続け、2020年には602万~631万人、2025年には675~730万人。2040年には802~953万人にまで増える見込みです。(数に幅があるのは推定値を含むため)
認知症の有症者数の推移
2012年 | 462万人 |
---|---|
2015年 | 517~525万人 |
2020年 | 602~631万人 |
2025年 | 675~730万人 |
2030年 | 744~830万人 |
2040年 | 802~953万人 |
2060年 | 850~1,154万人 |
※「平成29年版高齢社会白書」より
これだけ認知症の発症者が増えてくると、「認知症有症者の専門施設」へのニーズも上昇してくるはずです。特にグループホームは、認知症のケアに対する経験豊富な職員が常駐しているので、認知症有症者の方とその家族にとって心強い施設と言えます。
入居することで認知症の進行を食い止められる
認知症は全体の6割以上を占めるアルツハイマー型認知症を含め、進行性の場合が多いです。軽度の段階であれば日常生活を問題なく送ることができますが、症状が進行して中度~重度と悪化していくと介護者が片時も目を離せないような状態となります。
重度化すると「周辺症状(徘徊・暴言・暴力行為・もの盗られなどの妄想)」が顕著になり、介護負担は重いものにならざるをえません。介護者の側が精神的に参ってしまい、介護うつの状態になるほか、負担に耐えられず虐待行為に走ってしまう・・・というケースも起こりえます。
グループホームは「ある程度共同生活が送れる人」を入居者として想定しているので、あまりに認知症が重度化し、他の入居者に迷惑をかけるような症状が顕著に出ていると、入居が難しくなることも多いです。
ただ、初期状態~中度の段階のうちにグループホームに入居すれば、入居後に認知症対策の機能訓練を行っていくことで、進行を遅らせることも望めます。
老人ホーム(特別養護老人ホームや有料老人ホーム)でも、認知症の方の受け入れに対応している施設もありますが、グループホームのような「共同生活の中で家事をしながら機能訓練を行っていく」といったことは基本的にしていません。
また、施設によっては認知症に対する理解度や経験が少ない介護者しか常駐していないこともあり、認知症専門施設であるグループホームは、認知症の悪化を防ぎやすい施設と言えます。
グループホームの費用は有料老人ホームより安め
グループホームで気になるのは毎月どのくらいの費用が掛かるのか?ということではないでしょうか。入居後かかる費用としては、「家賃・食費・共益費」や「光熱費・レクリエーション」やイベントの費用などが必要です。
また、グループホームは介護サービスの一種である「認知症対応型共同生活介護」を提供する施設なので、要介護認定(入居できるのは要支援2~要介護5)の段階ごとに介護費用が毎月発生します。
入居時に入居一時金や保証金が必要なことも多い
グループホームに入居する際、保証金または入居一時金が必要になることがあります。施設によっては徴収しないケースもありますが、相場としては数万円~数十万円ほどです。高い施設だと100万円近く掛かることもあるので、事前に確認しておきましょう。
保証金は通常の賃貸契約における「敷金」に該当する費用です。退去する際は、居室の清掃代や修繕代などにかかった費用が減額され、残額が返却されます。(家賃の支払いが遅れた場合は、保証金から補填)。
一方、入居一時金は施設の「利用権」を得るための費用です。入居後に毎月家賃に償却されていくという形をとり、施設ごとに「償却期間」と「償却率」が定められています。制度上の基準が定められてないので、3年で全額が償却されることもあれば5年以上かかる場合もあり、入居前に確認しておくことが大事です。
グループホームの介護費用は?
グループホーム入居後は、「認知症対応型共同生活介護」の介護費用を毎月定額負担する必要があります。具体的な費用としては以下の通りです。
要支援2 | 755円 |
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要介護1 | 759円 |
要介護2 | 795円 |
要介護3 | 818円 |
要介護4 | 835円 |
要介護5 | 852円 |
※グループホームでかかる介護費用(自己負担額1割、共同生活住居が1つのケース)
※厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索より
もし認知症を患い、要介護認定で「要介護2」の認定を受けていれば、月30日で「795円×30日=23,850円」となるわけです。
グループホームの費用例
家賃や食費は立地場所にも影響を受けますが、一般的な相場としては家賃:5~10万円、食費:4~5万円、「光熱費・管理費・娯楽費」が3~4万円。これに要介護段階ごとの介護費用(自己負担額)が必要になります。
介護付有料老人ホームよりは安いですが、特別養護老人ホームよりはやや高額となります。また、有料老人ホームは入居一時金で数百万~数千万円必要なこともありますが、グループホームはそれほど高額にならないのが一般的です。
グループホームは認知症を発症したときに頼りにできる施設
例えば一人暮らしをしている方で認知症の診断を受けた場合、症状が進行すると一人暮らしが難しくなります。そんな時、軽度の段階からグループホームに入居すると、症状の進行を押さえながら同じユニットの仲間や職員の方と充実した日々を送れるでしょう。
費用も有料老人ホームほど必要ないので、その点でも入居しやすい施設です。ポイントは認知症専用の施設とは言え、あまりに症状が悪化すると入居が難しくなるということ。
もし「認知症を発症したら利用したい」と考えているなら、ある程度自分で身の回りができるうちに入居し、症状を悪化させないための機能訓練を受けていくとよいでしょう。